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変わらぬことで生き延びた?進化の奥深さムカシトカゲ「生きた化石」(下)

THE PAGE - 10月13日(金) 12時50分

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(THE PAGE)

 生物は、環境に応じ、姿を変えて進化していく。ダーウィンが唱えた進化論は、今日わたしたちの常識となっています。ところが、長い年月、初期の姿をとどめたシーラカンスのような「生きた化石」と呼ばれる生物がいます。シーラカンスやカブトガニ、ほかにはどのような生物がいるのか、生きた化石の定義とは何か、前回の連載で紹介しました。

 先日、この生きた化石のひとつ、「ムカシトカゲ」(スフェノドン)について、新しい論文が発表されました。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、報告します。

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ムカシトカゲ「スフェノドン」

 前回、古生物学における「生きた化石」「生きている化石」という、重要なコンセプトについて説明してみた。いかつい格好をしたシーラカンスという魚や、海岸線に無数に転がるカブトガニ等、いくつかその代表例も紹介してみた。(見逃した方はこちらの記事(https://thepage.jp/detail/20171006-00000006-wordleaf)を参照。)

 もう一つ生きた化石を語る時に忘れてはならない動物がいる ── 「ムカシトカゲ」だ。この日本語の名前(=和名ともいう)は、なかなか言い得て妙だ。誰がはじめてこの名前を考案したのか、私は知らない。しかし、太古の「昔ながらの特徴を持ったトカゲ」という意味が十分読み取れる。(しかし後述するように、この名前は、分類学上、混乱を招きかねない。)

 現地のマオリ語でTuataraと呼ばれ(「背に生えた突起」の意味)、この名前はよく使われる。英語の一般名は「sphenodon」で、「スフェノドン」と発音する。これは正式な学術名Sphenodonから直接派生している。(ちなみにスフェノドンは、日本の定食屋の丼物とは当然何の関係もない。)

 現在一属一種(S. punctatus)のみが、ニュージーランドの非常に限られた地域(離島)に細々と生息している。本土の個体は200年くらい前に絶滅したと考えられている。以前にもう一つ別の種「S. gunteri」も1877年に記載された。体長は約80cmまでに成長する。しかし新陳代謝はかなり低めで、成体になるまでに10―20年くらいかかる。

 食性は昆虫がメインだが、小型の爬虫類や鳥などの卵を食べることもあるそうだ。基本的に夜行性で、(成体は特に)木の上でなく地上で生活する。メスは4年くらいに一度しか産卵しないそうだ(多くのトカゲやヘビの種と比べて少ない頻度だ)。

 さて、このスフェノドンの爬虫類における分類学上のポジションは ── 今回の記事のハイライトとして ── 非常に重要だ。スフェノドンはより広義な大きなグループ「ムカシトカゲ目(Sphenodontia)」に、現在分類されている。この事実はシンプルに素通りできない、非常に重要な点だ。(牛丼と称す料理に「チキンか豚肉が使われていないがどうか」といった国際問題にさえ発展しかねないほどの一大トピックだ。)

 第一にその分類に注目していただきたい。「目(=Order)レベル」という大きなグループに分類されているものは、現生の爬虫類の中で、スフェノドン(属)だけしかいない。一方、化石記録を見渡せば、このスフェノドン目に属す種は、特に中生代前半に世界各地から実に多数知られている。(注:こちらのPalaeos(http://palaeos.com/vertebrates/sphenodontia/sphenodontinae.html#Sphenodontinae)のサイトにこうした化石のイメージがいくつかある。)
  http://palaeos.com/vertebrates/sphenodontia/sphenodontinae.html#Sphenodontinae

 もう一つの重要な点は、その近縁関係だ。ムカシトカゲ目は、一般によく見かける(または広く知られている)トカゲの仲間 ── 例えばカメレオンやイグアナ、ヤモリ、スキンク、オオトカゲ等 ── のグループ(=有鱗目Squamata)とは、全く別のものだ。(ちなみにヘビもこの一大グループに含まれる)。進化上、ムカシトカゲ目と有鱗目の両グループは、中生代前半に「枝分かれ」し、今日に至るまで独自の道筋を歩んできたと一般に考えられている。

 つまりスフェノドンは、簡単にトカゲと呼んでは、大きな「誤解を招く」恐れのあるグループの爬虫類なのだ。(この問題を解決するには、どなたか博識があり勇敢な研究者が「スフェノ丼」という呼び名を提唱するしかないだろう。)

 そしてもう一つ「生きた化石」スフェノドンに隠された、興味深い事実がある。解剖学的な特徴を詳しく見てみると、いくつもジュラ紀などの化石種と似た形質が、現生のニュージーランドの種において確認できる。

 例えば、頭骨の大きな穴の数と位置(注:同じような完全な「双弓類型(https://www.brh.co.jp/research/formerlab/miyata/2004/post_000004.html)タイプ(diapsid type)の頭骨」は、2億年前ほどの化石種に共通して見られる)は見逃せない。「第三の目(http://wonder.whdpet.com/p/1703/ixkMsHyQ_20170307205107.jpg)」と呼ばれる特殊な感覚器官(のようなもの)も持っている(注:目と目の間で頭骨のてっぺんあたりにある小さな穴がこれにあたる)。その一生の間、歯は(トカゲなどと異なり)生え変わることがない(2億年もの間、歯医者にも行かずに生き延びてきた)。背骨の形は、トカゲやヘビというより、両生類や魚などのものにより似ている。

 こうした三畳紀やジュラ紀の種に共通して見られる初期の形態 ── そのほとんどが現生の爬虫類種には失われている ── をたくさんそなえた、とてもクールなスフェノ丼 ── 否、「スフェノドン」。(あえてムカシトカゲの名誉のためにいわせていただく。古脊椎動物研究者にとっては、爬虫類の進化パターンを探るために、格好の研究対象だ。私のオフィスにも頭骨の精巧な模型がある。ムカシトカゲさまさま。実に貴重な存在だ。)

 スフェノドンは「生きた化石」の称号を得るにふさわしいと言えないだろうか。

あいまいな「生きた化石」の定義

 「生きた化石」の代表(の一つ)として有名なムカシトカゲ「スフェノドン」。この爬虫類をもとに生きた化石の定義について、改めてまとめてみたい。

1.太古における大繁栄:ジュラ紀の化石記録においてたくさんの種が見られた。
2.初期形態の所持:2億年以上たってもあまり変わらぬ形態をいくつかいまだに持ち合わせている。
3.進化における情報源:古生代後半から中生代前半に起きた、初期爬虫類の進化パターンを探る上で恰好の情報を与えてくれる。
4.現生種の存在:現在も生きているが、非常に限られた地理的分布を示している。非常に限られた数の種が生き残っているだけだ。

 1−3の事実は生きた化石の定義として、他の例(https://thepage.jp/detail/20171006-00000006-wordleaf)にも共通して見られるようだ。第4の点は、サメやゴキブリなど世界中に現在分布しているものにはあてはまらない。しかし、現在2種だけが太平洋も非常に限られた深海だけに生息しているシーラカンスはこの例に含まれる。

 こうして改めて「生きた化石」の特徴を考えてみると、その定義がかなりあいまいなのが分かる。例えば「古い形態」といっても、どれくらいの年代ならいいのか? 現在生息している野生のインド象を、わずか数千年前に生きていたマンモスと比較して生きた化石と呼ぶことは可能だろうか?

 そして初期の(いわゆる原始的な)形態を「いくつ」備えていれば、生きた化石の仲間入りが出来るのだろうか? 例えば、我々の細胞はプロテイン(アミノ酸)を基にした構造をもち、DNAなど核酸をベースにした遺伝子を備えている。これは生物史の最初期に現れたバクテリア系の生物にも共通して見られる特徴だ。この点だけをみてヒトを生きた化石と呼ぶことはできないろうか? (こう呼ばれることに抵抗を感じる人がいるかもしれない。)

 最古の生物記録の記事で紹介した「ストロマトライト(https://thepage.jp/detail/20161013-00000009-wordleaf) 」は、生きた化石の例として取り上げていいだろう。しかし化石記録において、実際の(シアノ)バクテリア細胞の化石標本は、先カンブリア代 (約40億年から5.45億年前)の地層に保存されていることはまずない。化石として残るのは、バクテリアによって建築された「堆積による構造物」だけだ。

 はたして現在見られるストロマトライト(を作るバクテリア種)と何十億年も前のグループに、直接、進化上のつながりはあるのだろうか? 進化上もし現生種が独自にこの構造物をつくる能力を手に入れたとしたら、「生きた化石」のタイトルを与えることは難しいかもしれない。

 詳細な進化の道筋を知ることは、生きた化石を正しく認識するための、必要最低限のプロセスといえるだろう。フィギュアスケートや新体操の採点を行うには、それぞれの技の難易度などの知識(そしてしっかりした理解)が必要不可欠なように。

 ダーウィンによって150年以上前に提唱された、この生きた化石というアイデア。しかし(その定義は)なかなか「正体がはっきりしないもの」と、特に一部の生物学者や進化学者達から考えられている。そのためスフェノドンは「何となくむかしの感じを漂わせたトカゲのような爬虫類」と呼ばれかねない。

 はたしてスフェノドンの「生きた化石」としての権利を守るため、我々は具体的にどのようなことができるだろうか? ダーウィンによってはじめて提唱された、化石記録をもとにした進化学上のこのアイデアを、古生物学者はどのように継承、そして発展させられるのだろうか?

変わるべきか 変わらぬべきか

 生きた化石に関する深い示唆に富んだ興味深い論文を最近見かけた。Herrera-Flores等(2017)は、現生のスフェノドンの個体とムカシトカゲ目の化石種の、あごの骨のサイズや形に関するデータを、比較・検討している。
  Herrera-Flores, J. A., T. L. Stubbs, et al. (2017). "Macroevolutionary patterns in Rhynchocephalia: is the tuatara (Sphenodon punctatus) a living fossil?" Palaeontology 60(3): 319-328. http://onlinelibrary.wiley.com/wol1/doi/10.1111/pala.12284/abstract(http://onlinelibrary.wiley.com/wol1/doi/10.1111/pala.12284/abstract)

 結論の主なものをまとめてみたい。まず(1)あごの骨の形は、現生種のスフェノドンと中生代の化石種では非常によく似ている。そして(2)進化のスピード(注:アゴの骨の形の変化スピード)は、過去2億年近くにおいて、非常に「ゆっくり」だった。こうした傾向がコンピューターもとにした統計学など手法によって確認された。

 中生代のムカシトカゲ目は、(先述した)トカゲ・ヘビを含む有鱗目とは約2.4億年前(三畳紀初期)に枝分かれした可能性があるそうだ。そして、研究者によると中生代のムカシトカゲ目の種は、実にさまざまな多様性を見せ付けているそうだ。

 例えばたくさんの種は、川や湖にすんでいたと考えられる ── いわゆる「水生」の習性を手に入れていたようだ。その食生活も多岐にわたり、昆虫や他の動物を好む肉食性だけでなく、草食のムカシトカゲ目の種も多数過去に存在していた。

 こうしたデータは現在の「生きた化石」スフェノドンの進化上の立場を考える際、とても興味深い。中生代のムカシトカゲ目の仲間は、かつてかなりワイルドにその生を謳歌していた。恐竜時代に当時の進化の最先端を走っていたものも多くいたようだ。

 どうして(ムカシトカゲ目の中でも)スフェノドンの系統だけが、現在に至るまでこのムカシトカゲ目の進化の流れに逆らうかのように、初期の形態を後生大事に残して続けてきたのだろうか? 大きな変化をものにした多くの近縁のグループが、絶滅してしまったのは何とも皮肉だ。

 変わるべきか、変わらぬべきか。この命題にあらかじめ前もって答えられる生物種などいるはずもない。進化の度合いを自分から都合よくコントロールできる生物など(私の知る限り)いないはずだ。運のいいものだけが(たまたま)生き残っただけなのかもしれない。

 「この現実の世界にそのまま永続する姿かたちなんて何ひとつないのだから。」

 「騎士団長殺し」(村上春樹著)という長編小説の巻末近くにみられるこのフレーズ。(主人公である画家は、ある少女の肖像を描く過程において、その少女の成長する姿を想いつつこうもらす。)この言葉は生物進化の大まかな流れを、端的にうまく表しているともいえるだろう。しかし「生きた化石」達はこんな進化の趨勢に、我々をあざ笑うかのようにチャレンジし続けているのかもしれない。(進化の道筋はなかなか一筋縄にシンプルに理解できないのではないだろうか。)

 「あえて変わらなくても何億年も存続できるぞ」 ── こんな自慢めいた科白(せりふ)がスフェノドン達から聞こえてきそうだ。

 

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