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アリエナクナイ科学ノ教科書:第33回 悪の組織とブラックボックス

Discovery Channel - 7月30日(火)

今回のテーマは「悪の組織」と「ブラックボックス」。
本連載が扱っている科学設定というものは、基本的にフィクションの作品自体のディティールをアップする程度のおまけです。

しかし今回の2つはフィクションという話を動かす上では「大道具」になり、扱いを間違えると非常に不格好な設定になりがちなので、その当たりの注意点という感じで分析してみます。

●悪の組織
悪の組織(笑) そんなものはリアルには存在しません。

実際問題、自分で「悪」だと名乗っている悪の組織は存在しません。民族浄化などと言って虐殺と強盗を繰り広げている賊だって、なんとか自由軍とか、なんとか解放同盟とか名乗っており、基本的に悪だと名乗ってることはありません(笑)

実際の悪の組織論に関しては亜留間次郎氏が、アリエナクナイ科学の姉妹本でもある「世界征服マニュアル」で詳しく解説されているので興味がある人は見てみましょう。

ここでとりあげるのは悪の組織のリアリティです。

悪の組織ですが、ストーリー序盤のやられ役のかませ犬はただの野盗のようなものや、ただのならず者でよいのですが、連載が続いたりして話が盛り上がってくると「大規模な組織」出現してきます。

古くは、特撮「仮面ライダー」の「ショッカー」や、ゲーム「ストリートファイター」シリーズの「シャドルー」なんかはその典型で、麻薬の密売や人身売買といったいかにもな悪事を行い、世界征服を目論んでいます。麻薬の密売や人身売買は確かに利益の高い違法取引ですし、武器の密輸なんかも大きな利益が得られそうで悪の収入源としてはよく描かれています。

しかし世界征服を目論むレベルになると、あまりに需要が無すぎて収益としてはアリエナイというのはあまり知られていません。リアリティを求めると取引金額が小さすぎるのです。
簡単な話で、銃や麻薬、兵器は携帯電話や食料品などの需要に比べて圧倒的に少ないというところです。簡単に言えば収益のパイ自体がそもそも小さいのです。

実際のミサイルや戦闘機などの兵器製造をしている産業も、メインは航空機であったり、化学産業であり、副業として軍需産業をしているに過ぎないというのがリアルなところです。軍需産業は悪の枢軸的に描かれることが多いですが、その辺はリアルにすればするほど興ざめするような悲しさしかなくなってきます(笑)。麻薬王になったところで石油王には敵わないのです(笑) ましてや通信インフラ事業者や穀物メジャーの市場規模と比べるともはや端数のレベルです。

・・・・と、夢のない話になってしまったので夢のある話に戻しましょう。

実際に悪の組織が作品中で存在感を放つにはいくつかの条件があります。

1)目的を持つこと
2)手段を選ばないこと
3)独自で高度な科学力を持つこと

悪の組織が悪の組織らしくすることは1と2が如何にしっかり出来ているかに尽きます。
特に現実ベースのフィクションであれば、その足回りがしっかりしていないと、「なんかよくわからないけど、わるいことをしている」というぼんやりとした悪になってしまいます。そのためには、目的をはっきりして、その目的完遂のため手段のとわなさ加減こそが、悪の華なので、その部分を主人公の行動とは正反対に来るようになっていて、初めて悪の組織感が出るのではないでしょうか。
また頭目に信念というかイデオロギーも大切で、その大本にある軸に対しての状況に対してのぶれなさ加減がボスの器の大きさにも繋がります。
独自の高度な科学力や技術・・・というのも悪の組織のカリスマ性や特異性に重要な点で、これは後の「ブラックボックス」とも大きくつながりがあります。

抽象的に話を進めても仕方ないので、分析していきましょう。

1:ただの反社会組織
2:実在する組織/国家をモチーフに1つの目的を追いかけさせる
3:完全なる空想組織

1はそのままマフィアやヤクザといった反社会組織をそのまま描く場合です。反社会組織というのは、もともとは自警団や自治体の暴力装置を起源としており、それが国としてまとめられたときに、警察や軍隊に暴力装置としての役割が備わったことで、それに反する組織として「反社会」となったものですが、手広く、細かな犯罪をいろいろやっているという点が単独犯の犯罪者ではなく反社会の組織という意味で使われています。ただリアルにすればするほど反社会組織に優れた人材というのは非常に少なく、勉強ができて、学もあって・・・という人は、反社会的行動を取る前に、合法的で利益率の高い他の仕事をしているからです。とはいえ、不景気の中ではそうした技術を持て余した人も出るので、犯罪に加担していることもあるという話は以前した通りです。

>>アリエナクナイ科学ノ教科書:第6回 Breaking Badに学ぶ 科学描写の使い方とごまかし方

とはいえ、社会のはみ出しモノで構成する組織になってしまうので、無謀で危険に身をさらす人材は大勢いても技術職や事務方が圧倒的に不足しがちで、実際のアメリカのマフィア史でも、会計をしっかりして福利厚生に力をいれた組織が最も成功しているというのもあり、組織運営に裏も表もないようです。
圧倒的なカリスマで・・・というのも宗教組織でさえ難しい上に、そもそも忠誠心なども乏しい人材資源をベースにしている時点でまとめるには恐怖政治しかなく、恐怖政治には裏切りがつきものと、合法組織以上にしんどいのが犯罪組織の運営と言えそうです。この辺を如何にぼかすかでフィクション度合いが変わってきます。

リアルなところを描いているとされるドラマ「Breaking Bad」でも、基本的には悪党の苦労話です(笑)

現実の社会をベースにリアリティを求めるほど、朝の連続ドラマのような苦労話にしかならないので、もう少しロマンのある悪にすると少しファンタジーの要素を足す感じになります。

2はもう少しロマンを足したもので、最近の悪の組織のトレンドです。
ゲーム「バイオハザード」では多国籍製薬企業が軍需産業に生物兵器を売り込む・・・・という話になっています。現実的には、製薬で成功していたら、兵器開発は会社のイメージも悪くなるし利益は低いし、さらにまったく新しい兵器の開発とか金も人材もかかる上に実績ゼロの不安定兵器に金をだす国も組織もないので、完全なる無策運営で経営能力を疑うレベルですが、ロマンは非常にあります。
同様に、もはや映画の中では便利組織として使われる、悪のアイコン、ナチスドイツなんかも、いろいろな作品で、月面に基地を作っていたり、ゾンビを開発してたり、未知の力を持つ聖遺物を狙ったりとロマンあふれる活動をしています。

いずれもある程度、政治や思想、会社組織、軍隊として・・・・とちゃんとした人材確保とちゃんとした資金源を持ち、表向きちゃんとしている組織がロマンに向かって進むというところで、リアリティと悪の華感を両立しているパターンです。

3は、そもそも存在しない設定をベースにした組織です。例えば漫画「東京喰種トーキョーグール」では、グールという人食いの人外がいるという世界観の元、その人外の原理主義組織として1つの組織を悪として描いています。
また、影の社会で暗躍してきた忍者の末裔達により構成される暗殺組織・・・とか実在しない組織自体をそのままフィクションにドカンと持ち込む形です。存在自体がフィクションなので、組織力や構成員の自由さに際限が無いので、きちんと運営されている「悪の組織」として描きやすくなります。

●ブラックボックスの設定
つぎはいわゆる作品全体に影響を及ぼす「ブラックボックス」の存在です。

ブラックボックスという言葉は、動作の原理原則や構造を理解していなくても、機能や使い方さえわかっていれば使える装置や機構という意味です。

フィクションの作品においては一番大きなフィクション設定のことで、ブラックボックス自体の科学設定はなく「そういうものなのです」と大見得を切る設定の部分であるともいえます。

「吸血鬼がいる」とか「XXすると呪いがある」とかそういった作品自体のベースともなりえる設定で、これが大枠としてあることでその世界観自体を構築しているという、科学設定などの細かいディティール部分ではなく、むしろ話の柱になる部分のギミックです。

アニメ「機動戦士ガンダム00」では半永久機関として「太陽炉」というすごいエネルギー源が設定として置かれ、それを実在の既存の科学で肉付けして、モビルスーツを動かす・・・という科学設定を作っています。
漫画「ONE PIECE」では、悪魔の実という「なんでもできる」というブラックボックスを用意してますし、それを軸に話が進んでいるのはご存じの通りです。
漫画「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズでも「スタンド」という能力が固有にあるんだよ! という前提で異能力が描かれます。

「ブラックボックス」は「ブラックボックス」なので、重箱の隅をつつくようなツッコミは無用です。

例えば「見れば七日後に死ぬ」という映画「リング」の貞子の呪いも、デュアルディスプレイで再生してディスプレイ同士をくっつけて中の貞子同士を見つめ合わせれば論理破綻を招くことができます。このように作中でブラックボックス自体に異を唱えるとギャグにさえなってしまいますので不可侵領域となります。

それ故に「ブラックボックス」は大見得でありつつ、曖昧で、かつ大きな設定でなければいけません。さらに、「ブラックボックス」は原則的に1作品に1つであり、他の「ブラックボックス」を持ち込むと、どんどん設定が複雑化し、矛盾も生じやすくなります。ウルトラマンとゴジラが戦ってはいけないのです。

「ブラックボックス」は作品の軸となる設定であり、その科学的な解説は基本的には曖昧で良く、その「ブラックボックス」ありきの上に、実在する科学や理論を肉付け、XXが可能なら、それを制御する絡繰りはこう・・・という形で積み木のように「ブラックボックス」に理論を上乗せしていくほうがブレが少なくなります。

「ブラックボックス」は階層式設定として考えるとまとまりが良いです。大きく考えて3層にしておくとより把握しやすくなるかもしれません。

・上層:「基底と中層より生じる見かけの部分」 例(超能力者が特定の特殊技能職についている)

・中層:「それを取り巻く世界」 例(一般社会)

・基底層:「ベースとなる設定」 例(超能力が存在する)

こんな感じで、「ドラゴンがいる」を基底層として中層を「中世ヨーロッパ」とすると、ロードオブザリングのような世界観になりますし、ただの家畜の延長線上に置くと、また独特な世界観が生まれる・・・という感じで基底と中層のかけ算で上層(見える部分)が生じるという感じで構成されているのです。

以上、かけあしでフィクションにおいての「大道具」。科学設定とは少し違う感じですが、科学設定を運用するに当たって肉付けをする土台の話でした。

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

https://www.cl20.jp/portal/

タイトルイラスト:夢路キリコ https://www.yumejikiriko.com//

(2019/07/30)
 

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