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アリエナクナイ科学ノ教科書:第16回 戦争の科学 生物化学兵器!

Discovery Channel - 3月12日(火)

戦争といえば銃と爆弾の世界であるが、実はそれ以外にもとっておきの隠し球がある。それが存在自体が忌みとされている・・・BCWつまり「生物化学兵器」

腐れ! 混ざれ! 溶けてしまえ!

そんな禁断の兵器・・・と言われるものの、その実態は以外と知られていない。特にフィクションにおいても、それが何なのかがまるで漠然としたまま、「なんかしらんがさわると死ぬガス」みたいな扱いを受けることも多い、BC兵器について今回はまとめておこうかと思います。
あくまで「そういう病原体・化学物質がある」という話で、具体的な成分などは解説しているとキリがない他、専門書も多く出ているのでそれに譲るとして、戦争物のフィクションで描かれる際に重要な部分を抑えていきましょう。

●BC兵器の分類


戦中に存在した日本の生物兵器開発部門である「関東軍防疫給水部本部」(通称七三一部隊)が開発したとされる投下型生物兵器の写真と言われている。

BC兵器っつったら、サリンみたいな化学兵器に・・・生物兵器は・・・なんか病原体とかまき散らすやつ? みたいな漠然としたイメージではないでしょうか?

そもそも厳密な決まりもありませんが、基本的に化学兵器は合成された化学物質で、蒸気圧が高いモノかた低いモノ(蒸発しやすいものから蒸発しにくいもの)などいろいろあり、それらをアセトンやヘキサンといった有機溶剤に溶かしたものを散布して使います。

なのでもし仮に猛毒サリンをもし合成してもそれを拡散させる容器や装置がないと軍事的な毒ガス兵器としてはうまく機能しないわけです(混乱が目的のテロには十分ですが)。

化学兵器は作用こそ様々ですが、軍事的な作戦という意味では3つの役割に区別できます。

・殺傷兵器
・汚染兵器
・無能力化兵器

・その他(除草・燃焼促進剤)

この3つの用途があります。殺傷兵器としてはサリンやVXといった神経ガスが一番有名ですが、古くはホスゲンや塩素ガスもまた化学兵器として使われて多数の死者を出しています。イペリットやルイサイトといった触れた部分を腐食させる「びらん剤」などの多くは、残留性が高く、除染しないかぎり長時間、一定のエリアを汚染し続けます。
汚染し続けることに意味があるのかというと、市街戦などで敵勢力が突破してこないように一定エリアを汚染し続けることが役立つことがあるため、過去にはそういった用途で運用されていたこともありました。

また殺傷を目的とせず、相手の戦力をそぐ、排除するだけの目的として非殺傷化学兵器、無能力兵器などと呼ばれる、催涙剤(主に目を攻撃し痛みと涙で行動不能にする)、催吐剤(気管を刺激しむせるため嘔吐させる)、幻覚剤(幻覚状態に陥らせて戦闘力を削ぐ)、などといった化学剤が開発されています。

例外としてジャングルを枯らせる「枯れ葉剤」や焼夷弾の燃料なども広義では化学兵器といえるでしょう。
それでは生物兵器とは一体なんなのでしょうか?

遺伝子組み換えで人を襲う巨人やゾンビ、犬・・・なんてものはまだ技術的に不可能です(笑)
現在知られている生物兵器というのは、主に3つ。

・殺傷兵器
・汚染兵器
・対植物・動物生物兵器

まずは殺傷兵器として、炭疽菌などの破滅的な感染症を起こす強毒病原体を培養してバラまくもの、またボツリヌストキシンやコブラ毒などの化学兵器より遙かに致命的な生物由来の毒素兵器・・・こちらは基本的には毒性が強い以外は化学兵器と同じ感じです。

汚染兵器も、一定地域を汚染状態にすることですが、生物兵器だと復興さえ困難になるほどの被害が出るために、復興自体も阻害するという極悪なエリア制圧兵器となります。

そして3番目こそ、生物兵器の最も地味で最も凶悪な点で、敵国の食料という根底部分を破壊する酪農農業環境を汚染する兵器です。例えばブタが主要な国にブタコレラがいきなりバラまかれると当然畜産業が大ダメージを受け、輸入もできない国では肉自体が流通がとまります。さらにそのエサとなる麦やトウモロコシといった主食になる穀類を狙った強毒性のカビなどを使った生物兵器が存在する・・・と言われています。これらは使ったことがわかりにくい上に、国力を落とすという極めて陰湿な効果があります。

この3番目の兵器は今まで使われたとか使われていないとか、様々な諸説がありますが、いずれも証拠が残りにくいものなので、なんとも不明です。実際に使われたかどうかはともあれ、こうした使い方がされることがある・・・という感じで知っておくと良いでしょう。

●貧者の核兵器たる所以

簡単には生物化学兵器と核兵器は威力を比べることはできないのですが、仮に20メガトン級の水爆1つで半径10kmを完全に焦土と化すとされています(約300km^3)、これとほぼ同じだけの死傷者を出すにはサリンだと数~10t程度(死亡率30%と試算)とされています。炭疽菌であれば500kg(感染率70%)でほぼ同程度の死傷者が出るという試算があります。

20メガトン級の水爆を1つ開発するのに何千億ものお金がかかり、維持費にも何千万ドルというお金がかかるのに対して、軍用でサリンをプラントで製造すれば、材料は農薬などと半分以上は同じなので使い回しが効いてしまうため1tあたりのコストは1万ドル以下、炭疽菌を使った生物兵器に至っては抗生物質のプラントなどを転用すればほぼほぼノーコストで製造できてしまう。

この圧倒的なコストパフォーマンスの良さが貧者の核兵器と表される所以です。

基本的に戦争では、使った兵器を自国にも使われるという暗黙のルールがあります。
実際にナチスドイツはサリンを始めとする神経ガスを開発改良し、ソマンという猛毒ガスを兵器利用できるレベルにまで昇華させていました。しかし報復に同様の兵器が使われた場合、対策が無いという点で、最後の利用を思いとどまったと言われています。戦後、蓋を開けてみたら連合国もソビエトもこの技術に驚き、技術を接収、イギリス・アメリカはVXガスを開発、ソビエト(現:ロシア)はVRガス、さらにはノビチョクと呼ばれる新型神経剤の開発へと死の研究は受け継がれます。

生物兵器も化学兵器も過去に知られているものですらこの通りの危険性なので、その後水面下で開発が続けられていれば最新型では従来の治療薬が効くのか、対症療法が有効なのか? 何に感染したのか? 対応策は・・・それらが未知のモノであったり、複合的に使われたのであれば、もはや対策方法は無限であり、戦略兵器としては一度使うと報復に使用が連なり、無関係な人を大量に巻き込んだ泥試合になりやすいため、「わかりやすい威力」と「高いコスト」という核兵器が「政治のカード」として残ったのでしょう。

●BC兵器の運用のされ方

BC兵器というのは神経ガスだろうが細菌兵器であろうが基本的にエアロゾル(スプレーミスト)としてばらまかれるものが大半で、粒子自体は非常に軽い。そのため上昇気流などがあると空に押し戻されてしまい、また熱や酸素や紫外線など無害化に働くものが多いため、必然的にBC兵器が使われる天候というのは決まってくる。

BC兵器はミストの毒雲が一定時間エリアを覆うことが最大効率となるので、運用されるのは、夜で湿度の高い穏やかな曇り空、さらに逆転層の天候条件であれば最大滞留が起こるので最大効率となる。

逆転層というのは一般的に大気は,地表から十数kmまでは地上から上空に移動するに従って温度が低くなることが普通だが、地表が冷たく、高所が高い気温の逆転を逆転層と言い、この状態だと上昇気流が発生しにくく緩やかに押しつける大気の流れが生じるためBC兵器が使われるなら、こうした天候条件、時間帯が狙われる・・・ということになります。

●各国のBC兵器

第二次世界大戦後、日本やドイツの生物兵器や化学兵器の研究を接収した諸外国では、その研究を実質引き継ぐ形で兵器研究が行われます。

有名な研究所が、アメリカ合衆国、メリーランド州アメリカ陸軍フォートデトリック研究所と英国ウィルトシャー州のポートンダウン研究所があります。

いずれも生物化学兵器の専門研究機関であり、近年の、イギリスのノビチョクを使った暗殺未遂事件などでも、いち早く、ほとんど情報のない筈の未確認神経剤であるノビチョクを即座にポートンダウン研究所が特定したと報道されています。

ポートンダウンでは戦後大規模な人体実験が行われており、その中で死者も出ており、その実験は全て秘密裏にされていた・・・が、その秘密もついに暴かれ1999年7月に大規模な警察の捜査が入り、数千人規模での人体実験のデータなどが押収されたことで話題になったりしました。

このように表沙汰になることは非常にまれで、多くの国では現在も活発ではないものの、BC兵器の研究は続けられているとされています。

各国の戦争の時代はひとまず終わり、現在BC兵器の関心はテロへの利用に向かいつつあります。

もともと低コストで運用できるという部分と最大限効果を出さなくてもよい・・・という点ではテロとBC兵器は非常に相性が良く、実際に研究に乗り出しているパラミリタリー(民間私兵団)やマフィア組織、カルト教団(日本ではオウム真理教がサリンやVXを実際に作り使用)が関心を寄せていることからも、そうしたテロリズムに対するカウンターテクノロジーは必須であり、今後も水面下で研究が進められていくことでしょう。

フィクションの中で出すのであれば、ゲーム「バイオハザード」シリーズでは企業が開発していましたし、それほどお金がかからないという点で、貧しい国でもそれなりに設備もそろえてしまえる他、抗生物質の製造所などと偽装することで設備もすべて合法的に揃えられる可能性がある・・・という点でフィクションばりの何が起きても不思議では無い状況と言えます。
また、今後解説する予定のバイオテクノロジーの発展とも相性が良く、民間レベルで軍事でさえ対応不可能な組み替え遺伝子兵器なども登場してくる可能性はないとはいえません。

そういうと、そんな危ない技術は規制してしまえば・・・と言う人もいるのですが、技術というのは善悪がなく、規制をすればそれだけ開発力が衰え、開発競争で負ける・・というのは、すでに負けに負けているこの国ではもはや言うまでもないですね・・・・。

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

https://www.cl20.jp/portal/

タイトルイラスト:夢路キリコ http://www.yumejikiriko.com/

(2019/03/12)
 

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