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アーバンモンスターズ・街中の巨大魚 第15回 実はかなりのモンスター…! 都市河川の王者『コイ』

Discovery Channel - 7月11日(木)

日本で暮らす人々にとって、もっともなじみの深い淡水魚といえばコイだろう。
田舎であれ都会の真ん中であれ、自然豊かな水辺にも人工的なコンクリート張りの環境にも生息するため誰もが日常的にその姿を目にする魚である。

川底を漁るコイ。観賞用に改良された錦鯉こそカラフルだが、本来はこのように落ち着いた体色の魚である。

「鯉の滝登り」の故事やそれに由来するこいのぼりなどの風習しかり、コイは文化的にも非常に親しみの深い魚である。
改良品種の錦鯉は国内はもとより海外でも高い人気を博しており、愛玩飼育動物としてのバリエーションの豊富さは犬や猫に比肩せんばかりである。
また食用魚としても古くから重要な存在であり、地域によっては現在でも鯉こくや洗いなどが郷土料理として愛されている。

端午の節句の象徴であるこいのぼりは江戸時代に発祥したもの。コイという魚がいかに古くから人々に親しまれているかを示す風習である。

さらには日本で唯一、『広島東洋カープ』としてプロ野球のチーム名にまでなっている誉れ高い魚類なのである。
しかし、他のチームがドラゴンやら虎やら巨人といったモンスター揃いなのにコイって!と思っている人もいるかも知れないが……いやいや、コイもなかなかの『モンスター』なのである。
人間にとってはいい意味でも悪い意味でも。

まず、なんといっても大きい。日本国内で捕獲された最大級の個体では全長120cm、体重は30kgという大記録が残っている。
また、古くに原産地であるアジアからスポーツフィッシングの対象としてコイを導入したヨーロッパではなんと50kgに迫る怪物サイズも釣り上げられているという。
それは極端な例だとしても、全長1m体重10kgに達する個体は国内でもさほど珍しくない。

あまりに見慣れてしまっているせいでピンとこないかもしれないが、あれほどの体格を誇る魚が市街地の川や貯水池にウヨウヨしている光景はあらためて考えてみると異様ですらある。

市街地の河川で釣り上げられたコイ。今も昔も少年たちの遊び相手となっている。

そして環境適応能力の高さも怪物じみている。
汚濁や酸欠にめっぽう強く、ドブだろうがため池だろうがおかまいなしに他の魚類を差し置いてたくましく生き抜く。さらには一般的に塩分への耐性が低いコイ科魚類でありながら時には汽水域にまで侵入することがある。おまけに繁殖力も高い。
これらの特徴は飼育繁殖が容易で古くから人工的に養殖され続けてきたことにも表れている。

そしてこうした能力の中でももっとも素晴らしく、そして場合によっては極めて厄介なのが食性の幅広さである。
池のコイが麩やパンを嬉々として食べる様子から植物食性だと誤解されやすいが、実際は動物も積極的に捕食する雑食性魚類である。
水草、ミミズや水生昆虫にはじまり、果てはザリガニやモクズガニなど大型の淡水甲殻類やタニシ、シジミといった貝類まで掃除機のように吸い込んでは硬い殻ごと食ってしまう。もはや悪食と言っていい。

ザリガニすら捕食する。…一体どうやって?

だが、ここである疑問が生じる。
コイの口には歯が無いのだ。にも関わらず硬いザリガニや貝をいったいどうやって食べることができるというのか。

コイの口。口腔内に一切の歯を持たない。

答えは喉にある。コイの頭部を解体してみると鰓の奥、食道の一歩手前に人間の臼歯によく似た骨が露出しているのに気づく。
これは鰓弓の骨格が発達した「咽頭歯」という様々な魚に見られる咀嚼用の構造である。歯が皆無なのを補うためかコイの咽頭歯はとりわけ大きく強靭に発達しており、貝殻を割るどころか飲み込んだ硬貨を捻じ曲げることすら可能だという。
彼らはこの隠された歯であらゆる生物を餌として咀嚼し、取り込み、天下を勝ち取ったのだ。

コイの咽頭歯。鰓を支持する骨格が変化したもの。
拡大するとまるで臼歯。見た目どおり食物をすりつぶす役割を担う。

だが、昨今ではこの特性ゆえに大きな問題も起きている。
その類まれなるタフネスと悪食ぶりを遺憾無く発揮し、今やコイは全世界にその生息地を広げてしまっているのだ。
また、本来コイが生息していなかった河川や湖沼へ放流されることでその水辺が持つ本来の生態系を破壊する可能性がある。水底を食むことで水質や土壌の浄化を担う貝類や水生昆虫、水草などを一掃してしまうためである。
そのため、国際自然保護連合(IUCN)が定めるところの「世界の侵略的外来種ワースト100」にもオオクチバスなどと並んで選出されている

大阪の都市河川で釣り上げた大型のコイ。この巨体が要求する食物量はさぞ莫大なものだろう。

日本だって例外ではない。
近年の研究で日本にも琵琶湖などにコイの自然分布が確認されている。しかし、実は各地で見られるコイの多くは古くに大陸から持ち込まれたもの、あるいは最近になって国内で養殖されたものなどが人為的に放流された個体群であると考えられている。
生態系の撹乱に加え、自然分布のコイとの交雑などといった問題が発生しうるのだ。

しかし、コイの無差別な放流は現在もとどまるところを知らない。
立派で見栄えが良いこと、容易に生育すること、種苗が安価であること、そして誰もが知る魚であることから、事あるごとに河川や湖沼、ダム湖への放流が行われている。こうして彼らは堂々と、しかし人知れず各地へ分布、侵略を広げているのだ。
……コイという魚への過度な親しみが招いた悲劇ともいえよう。

平坂寛

*Discovery認定コントリビューター

生物ライター。五感で生物を知り、広く人々へ伝えることがポリシー。「情熱大陸」などテレビ番組への出演や水族館の展示監修などもつとめる。著書に「喰ったらヤバいいきもの」(主婦と生活社)
「外来魚のレシピ: 捕って、さばいて、食ってみた」「深海魚のレシピ: 釣って、拾って、食ってみた」(ともに地人書館)がある。
ブログ:平坂寛のフィールドノート

(2019/07/11)
 

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