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香港・ドブのぬし釣り 汚水に潜む巨大ヒレナマズを追え

Discovery Channel - 3月14日(木)

魚類というのは極めてに多様性に富んだ生物である。
一説にはその種数は3万種近いとも言われ、その中には驚くべき能力を備えたものも少なくない。
だが、ことにタフネスという要素においては今回紹介する『ドブのぬし』の存在を忘れてはならない。

ーーそもそもの発端は知人の生物研究者の一言であった。
「香港のドブに巨大なナマズがいる」
というのである。

香港に…巨大魚が?

香港といえば言わずと知れた東~東南アジアを代表する大都市。そんな都会のドブに巨大ナマズが?なぜ?
これは興味深い話だ。僕は真相を確かめるべく香港へ飛んだ。
香港中心街から地下鉄で30分ほど走り、水路の密集地へ向かう。

水面が目に入る前から、立ちこめる臭気がドブの存在を主張してくる。
硫黄とメタンの混ざった悪臭。1980年代までは日本でも嗅ぐことのできた、高度経済成長期のニオイである。

悪臭立ち込める細い水路。こんなところに魚が棲めるわけが…。

たどり着いた水路は跳び越えられそうなほど細い。水深も浅く、流れは緩い。そして水は……雑巾の絞り汁のように黒く濁っている。そこへ排水管から鮮やかな緑色や乳白色の廃液が常に流れ込み、地獄の様相を呈しているのだ。
さらに水底のヘドロからは絶えずメタンガスと思しき気泡が立ちのぼる。そして胃をえぐる悪臭…。

想定をはるかに超えるドブっぷり。およそ魚類が棲息できる水質ではなさそうに見える。
これほどの汚水であれば溶存酸素濃度は極端に低くなるはずで、普通の魚類は鰓呼吸を行うことができないのである。

しかし次の瞬間、驚くべきことに水面に大きな波紋が立った。
魚だ。どうやら狙いのナマズらしい。

汚水から顔を出すナマズたち。とりわけ雨後に活発になるようだ。

通行人に橋の上から好奇の目を向けられつつルアーを投げ込む。
ほどなくして折れんばかりに竿が曲がった。

ルアーに食いついたナマズ

数分間の格闘の末、1メートルを優に超える巨体が乾いたヘドロの上へ転がった。
ギャラリーから驚嘆の声が上がる。地元民ですら、ここに魚がいることは知らなかったようだ。

これが香港のドブのぬし、ヒレナマズだ!
ウナギを思わせる細長い体型だが、泳ぎは達者で釣り針にかかった際の引きも強い。

このナマズはヒレナマズ(クラリアスとも)の一種で実はアフリカ大陸を原産地とする魚である。
なぜ香港のドブにアフリカのナマズが?それは食用魚として導入され、貯水池で養殖されていたたためであるらしい。それが大雨による増水で下流のドブへ逸出、繁殖してしまっているというわけだ。

ヒゲの数は8本(日本のマナマズは4本)。このヒゲで化学物質や振動を感じ取り、濁った水の中でも活動できる。

ヒレナマズの仲間はアフリカや東南アジアなど雨季と乾季で水位の増減が激しい熱帯の止水域を原産地とする。乾季の減水時になると水質は悪化し、溶存酸素濃度は著しく低くなる。
そうした環境に適応するため、彼らは異様に表面積の大きな複雑な構造の鰓を持っている。これにより水面から直接空気を取り込んで呼吸を行うことができるのだ。そのため、常時酸欠状態のこんなドブでもたくましく生きていくことができるのだ。

複雑に枝分かれした表面積の大きな鰓。ヒレナマズはこれによって空気呼吸を可能としている。

しかし、彼らは小魚もエビもいないこんな水路で何を食べてこの巨体を維持しているのだろうか。
気になって解体してみたところ、胃には大量のヘドロが詰まっていた。このドブのヘドロには多数のアカムシ(ユスリカの幼虫)が棲んでいた。おそらくヒレナマズたちは一心不乱にこのアカムシを泥ごと飲み込んで消化吸収していたのだ。うーん、食生活に関しても恐ろしくタフだ。

身は牛肉のように真っ赤。これはおそらくマグロやカツオのような赤みというわけではなく、常食しているアカムシ(ユスリカの幼虫)の色素に由来するものだろう。

なお、本来は脂がのって美味しい食用魚であるため解体した個体を試食してみたが、石油製品めいたニオイがきつく、どう調理してもまともな味にはならなかった。間違いなく生涯でもっとも不味い魚であった。
環境とはこれほどまでに魚の味に影響を与えるものなのだ。

平坂寛

*Discovery認定コントリビューター

生物ライター。五感で生物を知り、広く人々へ伝えることがポリシー。「情熱大陸」などテレビ番組への出演や水族館の展示監修などもつとめる。著書に「喰ったらヤバいいきもの」(主婦と生活社)
「外来魚のレシピ: 捕って、さばいて、食ってみた」「深海魚のレシピ: 釣って、拾って、食ってみた」(ともに地人書館)がある。
ブログ:平坂寛のフィールドノート

(2019/03/14)
 

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