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蟲ソムリエの自由時間(フリータイム):第5回 テングビワハゴロモの背景がわからない

Discovery Channel - 3月9日(土)

まずはトップ画像の虫を見ていただこう。

見るからに隠れる気がない。どんな色の背景に置いてもかならずどこかが目立つ。Twitterでは「色彩構成の課題で提出したら絶対に落とされる」とのコメントもいただいた。それぐらい馴染める背景がない。私が見つけた時も、唐突にこのカラフルな彩り虫が、全く隠れる様子もなく木の幹に留まっていた。

だからといって強い毒があるわけでもない、らしい。文献を調べたところでは、強い毒があるとの情報はみつからなかった。とはいっても「毒がないことの証明」は細胞毒性でも調べないとなかなか難しいので、「この虫は毒がない」といった文献が見つかることはほとんどない。

だから味見は悩ましい。

私はこれまでかなりの数の虫を茹でて味見してきたが、この虫はさっぱり味の想像がつかない。目立ちたいのか、隠れたいのか。生活史が見えてこない。翅と頭の柄の両方が隠れられる環境が見つからないし、彼らは唐突に木の幹にいて、威嚇するような行動もなかった。私も学生時代、「虫みたいな服着てるね」と言われたことが数回あるが、それよりも明らかに奇天烈だ。

熱帯にくるからには、彼らに出会ってみたいと思っていたが、ここラオスには昆虫採集に来たわけではない。2017年の短期滞在では活動の合間や夜に、ご近所の庭木を覗き込むぐらいができることだった。夜になると放し飼いの犬が番犬の仕事をやり遂げようと、集団でけたたましく吠えてくる。これは怖い。暑い昼になると犬たちは人間には目もくれず、ダラダラと木陰でのんびりしているくせに。そのため蟲ソムリエである私のオフタイムは主に夜、宿泊している家の周りに広がっている。

Credit: 佐伯真二郎

余談になるが、こちらにくる前に、多くの予防注射を受けた。百日ぜき、破傷風、B型肝炎などなど。一番大事なのが狂犬病。3回に分けて一回3万円。それでも無敵にはならない。こちらで犬に噛まれたらいち早く検査をし、暴露後接種をしないといけないのだ。3回も接種するんだったら噛まれても平気で無敵になってほしいのだが、そうはいかないのが狂犬病の怖いところ。

なのでここラオスでは、野良犬と戯れることはできない。日本は野良犬たちと完全にサヨナラしたことで、狂犬病清浄国になれたのだと実感するが、野良犬を殺処分して清浄国になれた副作用として、狂犬病に対する恐怖心が消え、大事な防波堤が崩れつつもある。しっかりと、「狂犬病の恐怖に晒されなくていい幸福」を思い出して噛み締めたいものだし、ここラオスからも積極的に発信していきたいと思った。

さて話を戻そう。夜は犬が追いかけてくるので敷地の外で昆虫採集などできない。昼は活動で忙しい。そもそもここには昆虫採集を目的に来たわけではない。なのでかっこいい虫と出会える機会など、なかなかないものだ。しかしある夜、お隣のマンゴーの木の幹を見ると、いたー!村に滞在する際に借りている借家。夜、庭に出てお隣の庭木の影を見回していると、それはいた。

リュウガンとは毛の生えていないライチみたいな味と食感のフルーツで、パキッと割って身離れがよく、保存も効いていくらでも食べられる。この木はこちらにもよく生えていているので、エサの問題はないはずなのだが、テングビワハゴロモがどこにでもいる(らしい)タイよりもいくらか北に位置するこの地域では少し寒いのかもしれない。

Credit: 佐伯真二郎

テング、ビワ、ハゴロモと一富士二鷹三茄子のような、縁起物の塊のような虫。

獅子舞にも似ている。めでたい時の和の雰囲気に近い。なので2018年の年賀状にしてみた。

Credit: 佐伯真二郎

さて味見に移ろう。「ライチのような味」がするとの噂を見かけたが、まったくしないとの話もある。

彼らの吸っている木の汁はそもそも栄養成分が薄く、それでも少しあるのは糖分などの炭水化物がほとんどである。人間が日常的に飲めば水分の取りすぎになるか、糖尿病一直線(昆虫に糖尿病があるか疑わしいところだが)といったバランスの悪い食事である。そこで彼らのような、植物の汁を吸うことに特化した昆虫の中には体内に吸収せずに「甘露」という甘いだけの汁を老廃物として体外に排出するものがいる。

アブラムシがアリに守ってもらえるのもこの「甘露」を出すためである。老廃物をプレゼントにするなど、なかなか失礼だと感じるが需要と供給とはそういうものなんだろう。頭の上にある青白い汁がおそらく甘露だろうと、この汁を舐めてみると、すっきりとした甘みとわずかに渋みを感じた。リュウガンやライチといわれたら、そうかもしれないぐらいの味だった。

次は本体を茹でていただこう。茹でても色は変わらず、鮮やかなままだった。食べてみると、セミよりもやわらかく、香ばしさもあってセミに近いナッツ味。ニイニイゼミぐらいに大きいが、やわらかいハゴロモの仲間であることを感じる。日本のハゴロモはずっと小さいが、昔食べたアオバハゴロモも、同様にやわらかくて香ばしかったことを思い出した。

調べてみるとテングビワハゴロモは色のバリエーションが多く、そのどれもがそれぞれにキテレツな配色をしているらしい。彼らはどこにいるのだろうか。

いたー!

Credit: 佐伯真二郎

今度は緑の配色である。Pyrops viridirostris のように見える。これは味を比べてみないと、と手を伸ばした瞬間、逃げられた。くやしい。味の違いを確かめたかった。色の違いは味の違いと関係するのか知りたかったし、そしてこの鼻の大きい(正確には鼻ではないが)ドンくさそうな昆虫にささっと逃げられたことも悔しい。

逃したテングビワハゴロモは美しい。

きっとまた会おう。ラオスにいる限り、出会えるはずだ。そして揚げて、今度はパフェにしよう。ということで悔しまぎれに画像を合成して想像図を作った。ラオスで食べたビンスーという果汁かき氷のパフェの写真と合わせてみる。残念ながらあれ以来テングビワハゴロモには出会っておらず、レシピの作成は叶わないままなのである。

Credit: 佐伯真二郎

合成画像を作ったことで、彼らにお似合いの「背景」に気づけた。そうだ。彼らの背景にはパフェが合う。この赤い天狗鼻(鼻ではないが)をつまんでアイスクリームをすくって、ぱくっといきたいものだ。パフェに馴染む、というあたらしい彩りとして食材になるか。この虫もまた、養殖してふんだんに使ってみたいものだと思った。

Credit: 佐伯真二郎

佐伯真二郎 蟲ソムリエ・NPO法人食用昆虫科学研究会理事長

大学院で研究した昆虫学を応用して美味しい昆虫を探索、料理、オススメする蟲ソムリエ活動がライフワーク。昆虫食先進国であるラオスで子供の栄養が足りていない問題を知り、NGOの栄養支援プロジェクトに2017年から参加して長期滞在中。ラオス人に昆虫料理を教わりつつ、養殖技術を開発改良し村人に広めている。昆虫を茹でて味を記録しており日本での味見と合計して565パターン、356種に。味の昆虫図鑑を作りたい。

(2019/03/09)
 

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