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スズメもネコジャラシも大陸からやってきた 外来か在来種かはどう決める?

THE PAGE - 4月21日(金) 18時50分

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(THE PAGE)

 外来生物による生態系や人間社会に対する悪影響は、世界的にも生物多様性保全にかかる重大問題として捉えられています。わが国でも、生物多様性国家戦略において外来生物防除は重要課題であり、外来生物法という外来生物対策専門の法律も制定されています。

 この法律の中では、法律上の外来生物とは、「明治時代以降に日本に導入された生物種」と定義されています。言い換えれば、明治時代より前、つまり江戸時代以前に日本に持ち込まれた生物は、原則、この法律では規制対象とはしない、ということになります。

「人の手によって移動された生物」の歴史は古い

 なぜ、「明治時代以降」という線引きがなされたのか? 実際決めたのは法律のアドバイザーとして召集された有識者(学者)たちだったのですが、その根拠は、明治時代は、開国を皮切りに人間の移動や物流が盛んになり始めた時代の節目であるから、とされています。

 しかし、島国である日本は、その歴史を遡れば、縄文の時代から人の移入が繰り返されており、その過程で様々な生物が大陸から持ち込まれてきたと考えられます。つまり、「外来生物」=「人の手によって移動された生物」の歴史はずっと古くから始まっていたと言えます。

 例えば、私たちにとって馴染みの深い、日本の代表的な留鳥(渡りをせずに国内に留まって繁殖する鳥類)であるスズメは、稲作文化の到来とともに大陸から人に伴って移動してきた外来種と考えられています。

 イヌタデやチガヤ、エノコログサ、タマガヤツリなど、里山で馴染みの植物達も、稲作文化とともに大陸から渡って来たとされる外来種です。
 モンシロチョウは、奈良時代に、大陸からダイコンや菜の花などのアブラナ科作物が持ち込まれた際に、その葉に紛れて日本に移入された外来種とされます。

 公園や牧草地、あるいは畑や田んぼの周辺に普通に生えているシロツメクサは通称クローバーと言われていますが、これも外来種です。1846年にオランダから贈られてきた陶器を梱包するのに詰め物・緩衝材として使用されたのがこのシロツメクサ=「白詰草」だったと言われています。この最初の持ち込みをきっかけにその後も牧草や緑化植物として輸入され、日本に定着したとされます。

家屋侵入や農作物被害をもたらすハクビシンは外来生物ではない

 今の大人世代が子供時代に、身近な自然でよく見かけたクサガメは、現在その生息域が外来種ミシシッピアカミミガメの分布拡大によって圧迫されているとされますが、このクサガメ自体も実は18世紀末ごろに中国大陸から持ち込まれた外来種ではないかと疑われています。

 その根拠として、国内でこれまで化石が発見されていないこと、また、一番古い文献が江戸時代以前にはないこと、そしてDNAを調べてみると日本で捕獲される個体は、いずれも大陸産の系統とほとんど同じ塩基配列を示しており、島国で隔離されて進化して来た形跡がないこと、などが挙げられています。

 近年、都会でもその数が増えて問題とされるハクビシンは、すこし前までは、日本にもともと生息している在来種ではないかと考えられていました。江戸時代の絵巻物なんかに登場する妖怪「雷獣」もハクビシンがモデルだという説もありました。

 しかし、ハクビシンは、この江戸時代に大陸から持ち込まれた可能性も指摘されています。さらに明治時代以降にも毛皮用に輸入された記録があり、今、国内で蔓延している集団は外来種の可能性が高いとされます。

 結局、ハクビシンについては、家屋への侵入や農作物への被害など、有害な影響が問題視されてはいるものの、日本国内への導入年代が明確ではないという理由から、環境省の外来生物法では規制対象から外されたままになっています。

 このように身近な生物が実は外来種であった、あるいは外来種かもしれないという事例はかなりたくさんあり、今後も、歴史的な記録の見直しや、DNAなどの科学的検証が進むことで、「古くから住み着いている外来種」がさらに見つかるかもしれません。

 こうなると、結局、どの時代まで遡れば日本本来の生物相の時代と定義できるのか、またどの時代からの外来種を排除もしくは管理の対象とすべきなのか、科学的・生態学的に説明することは難しくなってきます。
 実際に、長年在来種と思われていたクサガメが外来種の可能性があることが判明してから、このカメの扱いについては、研究者の間でも混乱が生じています。特に、正真正銘の日本在来種とされるイシガメと交雑して雑種が生じていることから、放置すればイシガメの遺伝的固有性が失われるリスクが高い、ということで、クサガメも外来種として排除すべき、とする意見もあれば、すでに日本の生態系に馴染んでおり、排除することの方が悪影響となるとする意見もあります。いずれにせよ、導入年代が明治より前ということで、環境省もクサガメについては、何ら法的な対策はとらない(とれない)状態にあります。

 クサガメよりも古い外来種であるスズメやモンシロチョウ、里山の草花については、もはや多くの日本人にとっては普通に日本の風景に溶け込んだ生物であり、これらの種を外来種だから防除しよう、と言う人はまずいません。それどころか、スズメは、茅葺き屋根の家屋が減ったことで、その数が著しく減っており、国内からスズメがいなくなってしまうのではないかと危ぶむ声すらあります。
 

なぜ、今、法律まで作って外来種を防除する必要があるのか

 どんな外来種も時間が経てば、「在来種」としての「国籍」を得ることができるとすれば、現在問題となっている外来種たちもいずれは日本の生態系に組み込まれて、在来種と化してしまうのでしょうか? だとすれば、なぜ、今、法律まで作って外来種を防除する必要があるのでしょうか?

 アライグマやセアカゴケグモなど、人間の農業や健康に直接悪影響を及ぼす有害生物を防除するという目的は、多くの人にとって理解することは難しくありませんが、外来の草花を利用して分布を拡大した北海道のセイヨウオオマルハナバチのように、あくまでも在来のマルハナバチを守る、という生物多様性保全の観点から防除される外来種については、その「有害性」をすんなり理解できる人は必ずしも多くないかもしれません。

 放っておけば、この外来マルハナバチが今度は日本の草花の花粉媒介者として機能するようになり、日本の生態系に馴染んでしまうのではないのか。そういう意見もあって然るべきです。

 特に北海道の天然林や原生花園は、人々が入植して以降、開拓によってその面積は大きく減少し、ほとんどの平野部が農耕地や牧草地に転換されています。そして、この切り開かれた大地に植えられたのがシロツメクサやアカツメクサなどの外来牧草であり、それらの外来植物の花を利用して在来のマルハナバチたちも、本州以南では見られないほど高密度に飛び回り、栄えてきました。この改変された生態系に外来のマルハナバチが加わったとして何の問題があるのか、という疑問も湧きます。

 結局、守るべき日本の「自然の姿」とは何か、という外来種防除の究極目標が、今の日本では、はっきりと定まっているとは言いがたく、いま、環境省が中心となって進めている外来種対策に対する国民的な合意形成を困難なものにしていると言えるでしょう。自分自身、外来種を研究する身として、所詮は自分の好きな生き物を守りたいだけの学者のエゴだろう、と側から思われても仕方がないと感じることがあります。

 ただ、かつての外来種と現代の外来種の大きな違いは、その移動(移送)の速度と量だといえます。古い時代は人間が生物を運ぶ速度や距離にも限界がありました。また移送された先でも、豊かな自然生態が存在するかぎり、外来種も容易には先人たち(在来種)の生態ニッチェを奪うことはできなかったと思われます。

 しかし、1600年代の産業革命以降、人間は、かつて生物が手にしたことのない強大な力を手に入れ、高速移送・長距離移送の時代に突入しました。今や、大陸間の移動はわずか1日もかからずに可能となり、寿命が短い生物でも簡単に海を渡ることができるようになりました。

 その結果、外来種の移送量と分布拡大速度も急速に上昇し、加えて、経済発展に伴う自然環境の破壊・改変・汚染が撹乱環境を拡大させ、在来種の衰退と外来種の定着という生態系のシフトをさらに加速させました。

 日本も開国以降、急速な経済発展を遂げる中、私たちの身近な自然は大きく改変され、在来の生物たちが住みにくく、逆に外来種が住みやすい環境が広がっています。

 このかつてない速度での自然環境の改変そして外来種の分布拡大の果てにはどのような生態系が待ち構えているのかは、容易には予測できません。なぜなら、我々は未だこの地球上に生息する生物種数すら把握できておらず、生態系や生物多様性のメカニズムや機能については、我々が得ている知識はまだほんのわずかで、ほとんど無知に近い状態にあるからです。

 結局、何が起こるかわからないという予測不能性こそが大きなリスクと捉えて、我々の生物多様性に対する理解が少しでも進むまでは、現状維持を図ることが最善策と考えれば、やはり、これ以上、外来種が増えることは可能なかぎり抑制するべきだと結論されるのではないでしょうか。

【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い(国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)

 

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