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EU離脱問う突然の英国総選挙 くすぶり続ける残留論と山積する課題

THE PAGE - 4月21日(金) 20時50分

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(THE PAGE)

 イギリスのメイ首相は18日、2020年までは行わないと公言してきた総選挙を6月8日に前倒しで行いたいと突然発表。翌日には英議会下院で議会の解散と総選挙の実施が可決され、メイ政権発足後から1年足らずの間に総選挙が行われる運びとなった。先月末に欧州連合(EU)側に離脱を正式に通告したイギリスは今後2年内に離脱手続きを完了させる必要があり、限られた時間で離脱を円滑に進めたいメイ政権と与党保守党はこのタイミングで議席を大きく増やしたい狙いがある。しかし、離脱をめぐってイギリスがさまざまな問題に直面しているのも事実だ。

議席を増やして円滑に離脱交渉する狙いか

「首相に就任して以来、私は2020年までは選挙は行われるべきではないと公言してきました。しかし、これから訪れる数年間を確実で安全なものにするために、このタイミングで選挙を行い、イギリス国民の指示を仰ぐことが最善であるという結論に達しました」

 18日にダウニング街10番地にある首相官邸の外で、メイ首相は集まった報道陣に向かってこのように切り出し、総選挙を前倒しで6月8日に実施したい意向を明らかにした。イギリスでは2011年に「議会任期固定法」が作られ、首相が解散権の行使を行うことができず、議会の解散には下院(定数650)の3分の2以上の賛成が必要となったため、メイ首相はまず総選挙前倒しの「意向」のみを発表した。翌日19日の午後に英下院で行われた投票では、賛成票522という結果で総選挙の前倒しが可決され、5月3日に議会が解散することも決定した。

 野党労働党のジェレミー・コービン党首は、前倒し総選挙を起死回生の大きなチャンスとして総選挙というギャンブルに賛成した。イギリス国内で実施された複数の世論調査では、どれも保守党が労働党を20ポイント以上リードしており、奇跡でも起こらない限り、労働党が議席を大きく伸ばすという目論見は夢物語で終わってしまう。また、保守党内部では、党重鎮らの中にいるEU離脱強硬派から、野党の抵抗をできるだけ少なくして交渉に臨む必要があるとメイ首相がプレッシャーを受けていたとの情報もあり、それが18日の突然の前倒し選挙についての言及につながった可能性がある。

 当初、メイ政権はEU離脱後もイギリスがEU内の単一市場に残留して経済活動を続ける「ソフト・ブレグジット」を目指していたが、あまりにイギリスにとって都合のいいソフト路線を認めるEU加盟国はなく、現在は経済面でもEUから離脱する「ハード・ブレグジット」に方針転換している。

 もともとEU離脱の是非を問う国民投票前に大きな議論となったのは、イギリス国内で働く他のEU加盟国出身者の多さであった。ホワイトカラーからブルーカラーまで、EU加盟国出身者はさまざまなタイプの仕事に就いており、その数は約320万人。同様にヨーロッパ大陸で仕事をするイギリス人も約120万人いる。離脱後に彼らが仕事を続けていけるのか、母国を含んだほかのEU加盟国に移動を迫られるのか。労働力の移動も大きな問題になる。

2019年3月までの離脱完了は可能なのか

 EUのさまざまな分野でのルールを取り決めた基本条約である「リスボン条約」が発効したのが2009年12月。その中の第50条では、EU離脱を望む国が行わなければならない手続きも明文化されている。離脱国はEUの最高協議機関である欧州理事会に離脱の通告を行い、原則そこから2年以内に離脱を完了させなければならない。

 EU加盟国が離脱を希望した場合、EU側に離脱を伝える必要があるものの、通告までの期限については特に定められていない。メイ首相は3月28日にEU離脱を正式に通告する手紙に署名し、書簡は翌日に欧州理事会のトゥスク議長に届けられた。ここから2年、つまり2019年3月29日までに、EUとイギリスの間で離脱に向けたさまざまな交渉が行われる。

 今月29日にEU加盟国会合が行われ、ここでイギリスのEU離脱について話され、離脱への交渉がスタートすることになる。しかし、すぐ交渉が始まるかといえば、事情はそれほど単純ではないようだ。

 今月23日にはフランスで大統領選挙が行われるが、1回目の選挙で50パーセント以上の得票率を得る候補が出ることはないとの予測が強く、5月の決選投票に持ち込まれるのは必至だ。またドイツでも9月に総選挙が行われる。フランスの選挙が終わり、ドイツの選挙が行われる前に、イギリスで総選挙が前倒しで実施されることが決まったため、イギリスのEU離脱に向けた手続きや交渉は、実際には秋ごろまで大きな動きはないだろうとの見方が強まっている。同時に、そうしたスケジュールが影響して、イギリスが2019年3月までにEU離脱を完了させるのには無理があるとの指摘も少なくない。
 離脱完了に必要なのは交渉だけではない。政治ニュースサイト「ポリティコ欧州版」は20日、離脱に関してイギリス政府と交渉を進める予定の欧州委員会の内部資料を入手し、その内容を伝えている。ポリティコが入手したのは交渉内容の草案で、イギリスのEU離脱後に未払いのEU分担金を、イギリス側に最大で600億ユーロ(約7兆円)をポンドではなくユーロで支払うよう要求するという内容だ。これにはイギリス国内のEU関連機関の引っ越しに関する費用も含まれているのだという。

 EU内の政策執行機関である欧州議会のアントニオ・タイヤーニ議長は、ポリティコが報じた欧州委員会の方針とは異なり、イギリスがEU残留を望む場合は、いつでもEU側はその意向を受け入れると語っている。

 20日にロンドンでメイ首相と会談を行ったタイヤー二議長は「総選挙後にイギリスがリスボン条約第50条からの撤退を望んだ場合、EU側もその考えに賛成するだろう。私自身もそうなってほしい」と会談後に発言。リスボン条約からの撤退は法的にも問題なく、欧州司法裁判所に持ち込まれることもないという見解を示している。

 欧州委員会やメイ首相はイギリスのEU離脱は既定路線で、どのような形で離脱を進めるのかに焦点を当てるような発言を続けているが、欧州議会のトップがイギリスに対してEU残留の逃げ道を与えるかのような発言を行ったのは興味深い点だ。タイヤー二議長はイギリスとEUの離脱交渉の時期についても言及し、本格的な交渉開始は早くても今年末になるだろうとの見通しを示した。

スコットランドなど分離・独立求める声も再燃

 昨年6月に行われた国民投票では、イギリス全体では離脱派の勝利となったものの、地域ごとに目を向けると、様相は少し異なる。スコットランドでは「残留」に投票した有権者が62パーセントに達していた。北アイルランドも、55.8パーセントが「残留に投票」。一方、ウェールズは52パーセントで離脱派の勝利。ロンドンをのぞいたイングランド全体では57パーセントが「離脱」に投票したが、ロンドンのみで見ると「残留」に投票した有権者が約60パーセントに達した。

 残留派が過半数を超えたスコットランドと北アイルランドでは、イギリスからの独立を求める国民投票を行い、その後EUに再加盟すべきとの声が上がっている。とりわけ、宗派間対立とイギリスの介入によって南北を分断されているアイルランドでは、北アイルランドがイギリスから独立したのち、アイルランドと統合すべきだとの声が日増しに強まっている。3月28日にはスコットランド自治政府議会で、イギリスからの分離・独立を求める2度目の住民投票の実施を求める動議が賛成多数で成立している。

 スペインに近い英領ジブダルタルも、イギリスのEU離脱に懐疑的な住民が少なくない。国民投票前にジブダルタルで行われた世論調査では、有権者の85パーセントが投票に行く予定で、88パーセントがEU残留を望んでいるという結果に。人口3万2000人のジブダルタルでは金融サービス業が主要産業の1つとなっており、EU加盟国は1つの国で免許を取得すると他国で新たに免許を取得することなく金融サービスが行える「パスポーティング」という制度を利用できるため、離脱はEUという巨大な単一マーケットから締め出されることを意味するのだ。

 南大西洋にある英領フォークランド諸島は、現在も領有権をめぐってイギリスとアルゼンチンがにらみ合いを続けている場所だ。1982年には両国の間でフォークランド紛争が勃発し、両軍合わせて3000人近くの死傷者を出した。アルゼンチン政府の圧力によって南米地域への貿易がほとんど行えなくなったフォークランド諸島では、輸出品の約75パーセントがEU加盟国向けとなっており、EUからの離脱は地域の経済に大きな打撃となる。

 EU離脱はイギリスの国外問題として考えるのは危険だ。スコットランドやジブダルタル、フォークランド諸島などのように、EUという後ろ盾がなくなることで経済的に将来を不安視する住民が多い地域に対して、イギリス政府はどのような対応を取るのだろうか。
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■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト(http://hirofuminakano.com/)

 

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